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新潟地方裁判所 平成3年(ワ)365号 判決 1994年10月27日

原告

株式会社富士トレーラー製作所

被告

フジイコーポレーション株式会社

主文

一  被告は、別紙イ号及びハ号物件目録記載の整畦機を製造または販売してはならない。

二  被告は原告に対し、金二七二〇万円及びこれに対する平成四年一一月二五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項及び第二項について、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文と同旨。

第二事案の概要

本件は、原告が被告に対し、被告の製品(整畦機)の製造・販売行為が原告の有する実用新案権を侵害するとして、その差止めと昭和六三年九月二六日から平成四年一一月二五日までの間に受けた原告の損害の賠償を請求した事案である。

第三争いのない事実

一  実用新案権

原告は、次のD、E各実用新案権(以下、その登録実用新案をそれぞれ「本件D実用新案」、「本件E実用新案」という。また、本件D実用新案と本件E実用新案とを合わせて「本件考案」という。)を有している。

1  本件D実用新案権

考案の名称 整畦機における畦叩装置

出願日 昭和五五年五月三一日

出願番号 昭和五五年第七六一〇一号

公告日 昭和六一年一月六日

公告番号 昭和六一年第三号

登録日 平成元年九月二七日

登録番号 第一七八七八四八号

2  本件E実用新案権

考案の名称 整畦機における畦叩装置

出願日 昭和五五年五月三一日

出願番号 昭和五五年第一七七七七六号

公告日 昭和六一年一月六日

公告番号 昭和六一年第五号

登録日 平成二年三月二三日

登録番号 第一八〇九五九〇号

3  本件D実用新案の公報における構成要件及び作用効果の記載

(一) 構成要件

a 走行機体に連結機構により機枠を連結する。

b 該機枠に旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータを設ける。

c 該回転ロータの上方及び畦上方にカバ部材を設ける。

d カバ部材の畦側に垂下カバ部材を設ける。

e 回転ロータの進行方向後方位置に畦上面及び畦斜面に合わせた縦断面へ形状の畦叩体を設ける。

f 該畦叩体を往復叩動作させる畦叩機構を設ける。

g 畦叩体の内面に離泥体を設ける。

h 回転ロータの土跳ね上げ跡位置に叩き反力を受ける安定部材を上下調節自在に設ける。

(二) 作用効果

本件D実用新案の作用効果について、その明細書の考案の詳細な説明の欄に、「本考案は上述の如く、走行機体を旧畦に沿って走行すると、一方では回転ロータは圃場泥土を跳ね上げて旧畦上に連続的に盛り上げ、回転跳ね上げ作用のため効率的な盛土ができ、カバ部材によって泥土の外方飛散が防止でき、より盛土効率が向上でき、それと共に他方では畦叩機構が駆動し、畦叩体は往復畦叩運動し、前記盛土を叩き締め固め、畦叩体は縦断面へ形状のため畦上面と畦斜面とを同時に叩き締め、旧畦及び地中と、当該畦叩体で盛土をはさみ込んで締め固め、離泥体は畦叩体の泥土着(原文のまま)を確実に防止し、このため強く盛土を締め固めでき、強固な畦を得ることができ、これによってはじめて良好な畦の造成、修復が可能となり、かつ安定部材は回転ロータの跳ね上げ跡位置の圃場土中に突入しているため畦叩体の叩き反力を受け、機枠の振動を抑制し、しかも圃場上の繊維物等の絡みが少なく、安定部材は円滑走行し、このため強く盛土を締め固めでき、強固な畦を得ることができる。」との記載がある。

4  本件E実用新案の公報における構成要件及び作用効果の記載

(一) 構成要件

a 走行機体に連結機構により機枠を連結する。

b 該機枠に旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータを設ける。

c 該回転ロータの上方及び畦上方にカバ部材を設ける。

d カバ部材の畦側に側部カバ部材を設ける。

e 該側部カバ部の下部を畦上面に倣って上下動可能に設ける。

f 回転ロータの進行方向後方位置に畦上面及び畦の一方側面に適合させた形状の畦叩体を設ける。

g 該畦叩体を往復叩動作させる畦叩機構を設ける。

h 畦叩体の内面に離泥体を設ける。

(二) 作用効果

本件E実用新案の作用効果について、その明細書の考案の詳細な説明の欄に、「本考案は上述の如く、走行機体を旧畦に沿って走行すると、一方では回転ロータは圃場泥土を跳ね上げて旧畦上に連続的に盛り上げ、回転跳ね上げ作用のため効率的な盛土ができ、この場合、カバ部材は回転ロータ上方及び畦上方への泥土飛散を防止し、側部カバ部材の下部は畦上面に倣って上下動して畦側方への泥土飛散を防止し、この結果、跳ね上げられた泥土は外方飛散せずに自重落下し、泥土の外方飛散が確実に防止でき、より盛土効率が向上できると共に平均した盛土ができ、良好な盛土状態を得ることができ、他方では畦叩機構が駆動し、畦叩体は往復畦叩運動し、前記盛土を叩き締め固め、畦叩体は畦に合う形状のため畦上面と畦斜面とを同時に叩き締め、旧畦及び地中と、当該畦叩体で盛土をはさみ込んで締め固め、畦叩体全体が畦に向かって往復畦叩動作し、このため強く盛土を締め固めでき、強固な畦を得ることができ、離泥体によって畦叩体への泥土付着が防止でき、これによってはじめて良好な畦の造成、修復が可能となり、強固な畦を得ることができる。」との記載がある。

二  被告の製造販売

被告は、少なくとも昭和六三年九月二六日以降、本件に先行してなされた侵害行為差止等仮処分決定の送達時である平成四年一一月二五日まで別紙イ号物件目録記載の「あぜぬり機FA―四〇」(以下、これを「イ号製品」という。)及び別紙ハ号物件目録記載の「あぜぬり機FA―五〇」(以下、これを「ハ号製品」という。また、右イ号製品及びハ号製品を合わせて、「被告製品」という。)を製造販売している。その構成は、別紙イ号物件目録及び別紙ハ号物件目録記載のとおりである。

第四争点

1  被告のイ号製品及びハ号製品は、本件考案の技術的範囲に属するか。

2  被告の故意過失の有無。

3  損害額。

第五争点1に対する判断

一  本件考案の作用効果

前記争いのない事実一3及び4並びに証拠(甲一、三、乙一)を総合すると、本件考案はいずれも明細書の考案の詳細な説明記載のとおりの構成要件及び作用効果を有するものと認められる。

二  本件考案の出願前公知技術との関係(本件考案の新規性)

1  証拠(甲二七ないし三六、乙一〇、一一及び一三)並びに弁論の全趣旨によれば、本件考案が出願された昭和五五年五月三一日当時、公知技術として開示されていた畦塗り機及び畦叩機等の畦整形装置には、①畦を跨ぐ形状の後すぼまり状の整形板をスプリングの力で常時畦に弾圧し、この弾圧力により畦を圧縮しつつ進行して畦を整形する装置、②土掘りロータにより土壌を畦上に跳ね上げ、固定的な上塗板により土壌を上塗りする装置、③回転羽根により土を跳ね上げてカバに沿って畦上に放てきし、固定的な上面塗板及び側面塗板により畦塗りする装置、④土泥を羽根で掻き上げ、ガイドに沿って畦上に放出し、固定的な畦上面塗り板と畦側面塗板により畦塗りする装置、⑤土泥をオーガにより畦上に送り上げ、固定的な成形板により畦を成形する装置、⑥揚土ロータにより泥土を畦側に揚上し、泥土を固定的な整形板により畦塗りする装置、⑦畦の側面を回転する切削具により切削する装置、⑧土壌を螺旋板により側方に移送して畦部に集積し、カムにより一枚板状の加圧板を往復動させ、この加圧板により畦の側面のみを叩き、叩かれた側面を固定的な仕上板により塗る装置、⑨回転する揚土羽根により土を跳ね上げて上部揚土カバに沿って畦上に放てきし、進行方向前側の枢着部を中心として畦塗り板をぱたぱたと片開き揺動させてその後側で叩き、機体後方に機体を安定させる尾そりを有する装置、⑩すきにより土をすき起こして畦上に乗せ、叩き板により側面のみを叩いて畦を成形する装置等があったことが認められる。

そして、前記争いのない事実一3及び4記載の本件考案の構成要件及び作用効果に、右公知技術を参酌して考えると、本件考案は、①畦上面及び畦斜面に合わせた形状の畦叩体を畦上面及び畦斜面に均等に強い力が加わるように往復運動させる畦叩機構を設けたこと、②畦叩体の泥土付着を防止する離泥体を設けたこと、③側部カバ部材の下部を畦上面に倣って上下動可能としたこと(但し、③は本件E実用新案の構成要件である)に新規性があるものと認められる。そして、本件考案は、このような新規性のある技術と公知技術を組み合わせ、より強固な畦を成形することを可能にしたことを特徴とする整畦機であるということができる。

2  これについて被告は、本件D実用新案の構成要件は、同実用新案出願前に実開昭五三―三二一二号公開実用新案公報(乙二五1ないし3「畦塗り機」)、昭和一六年実用新案出願公告第一九一一七号(乙二八「防土カバー」)、特公昭三八―一六七〇一号特許公告公報(乙二九「犂およびプラウ」)、実公昭四四―一六六六五号実用新案公報(乙三〇「動力耕耘機における防除カバーの取付装置」)、特公昭五三―一八四〇四号特許公報(乙三一「畦塗り装置」)及び実開昭五三―一〇二四一一号公開実用新案公報(乙三二「水田の畦作り機」)により公知となった特許ないし実用新案と同一もしくは極めて容易に考案することができた考案であるから、新規性は認められないと主張する。

しかしながら、乙二五3(明細書)中の前記「畦塗り機」の実用新案登録請求の範囲の項には、「畦面に泥土を塗り付ける畦塗り具の進行方向後方位置に、前記畦塗り具で塗り付けられた畦面を叩き仕上げする叩き装置を配設してあることを特徴とする畦塗り機」との記載があり、また、考案の詳細な説明の項には、「一旦、畦塗り具で塗り付けられた面を、合理的に処理することによって、塗り付け後における亀裂発生を軽減させ、水漏れを防止し得る畦塗り機を提供せんとするものである。」と記載されていることからすると、右考案は、水を含んだ泥土を、塗り付け後に亀裂が生じないように、畦塗り機を用いて畦面に塗り付けていくという技術的発想を根底に持つものと認められ、畦塗り機構が要件とされず、かつ、整畦作業に際して水を含んだ泥土である必要がない本件D実用新案とは、その技術的発想においてかなりの相違があると認められること、乙二八ないし三〇の各特許及び実用新案は、いずれも本件D実用新案とは関係のない動力耕耘機の耕土爪車、犂、プラウ及び泥除カバー取付装置に関するものであること、乙三一の特許公報の特許請求の範囲には、「大平ぐわの側面に小平ぐわを揺動自在に設け、大平ぐわにスプリングで突進する往復直線運動機構を連結して成る切削装置と、大平ぐわの後部上方にコンベアの基部を固定する排土除去装置、並びに斜め上方に向かう送出口を有する送土筒内に、主軸に螺旋羽根と跳出羽根を設け、かつ螺旋羽根の先端に刃を付けた螺旋ぐわを嵌装し、更に前記送出口に対向する規制板に畦の形状をもつ均し型板を備えた盛土装置と、該盛土装置の後方に、回転運動を斜め下方に向って出没する運動に変換する機構と連結する打叩板を持つ打叩装置より成(る)」との記載があり、このような右特許の構造は本件D実用新案の構造とはかなりの相違があるものと認められること、乙三二公開実用新案公報によれば、右考案は土すきおこし機により旧畦上に土をすき起こして乗せていき、叩き板で畦の側面のみを叩くものであって、同じく本件D実用新案の構造とはかなりの相違が認められることなどからすれば、これら先行の特許及び実用新案は、本件D実用新案の新規性に関する前記判断を左右するものではないというべきである。

3  また、被告は、本件E実用新案の構成要件は、同実用新案出願前に実開昭五三―三二一二号公開実用新案公報(乙二五1ないし3「畦塗り機」)、実公昭和三一―二五一二号実用新案公報(乙二六「農耕機防止板の昇降装置」)及び実開昭五三―一四八〇五号公報(乙二七「耕耘ロータリ装置におけるサイドカバー構造」)により公知となった特許ないし実用新案と同一もしくは極めて容易に考案することができた考案であるから、新規制は認められないと主張する。

しかしながら、右「畦塗り機」の実用新案は、本件D実用新案において説示したとおり、本件E実用新案との関係においてもその技術的思想をかなり異にするものと認められること、右「農耕機防止板の昇降装置」の実用新案は、本件E実用新案のような整畦機とは異なる農耕機に関するものであること、右「耕耘ロータリ装置におけるサイドカバー構造」の実用新案は、同じく整畦機とは異なる耕耘ロータリ装置に関するものであることなどからすれば、これら先行の実用新案は、本件実用新案の新規性に関する前記判断を左右するものではないというべきである。

三  本件考案と被告製品との一致点

前記争いのない事実一3及び4並びに証拠(甲五ないし七及び乙一)によれば、被告製品は、①トラクタに連結機構により機枠を連結していること、②回転ロータの上方及び畦上方に上方覆いカバを設けていること、③上方覆いカバの畦側に垂下覆いカバを設けていること、④垂下覆いカバの下部の上下動カバを畦上面に倣って上下可能に設けていること、⑤回転ロータの進行方向後方位置に畦上面及び畦斜面に合わせた縦断面へ形状の畦叩体を設けていること、⑥回転ロータの土跳ね上げ跡位置に叩き反力を受ける安定部材を上下調節自在に設けていることが認められ、したがって、被告製品は、前記本件D実用新案の構成要件のうち、a、c、d、e及びh、前記本件E実用新案の構成要件のうち、a、c、d、e及びfの各要件を充足しているものと認められる。

四  「回転ロータ」の要件充足に関する判断

1  前記争いのない事実一3及び4によれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「機枠に旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータを設けること」という記載があり、ここでは回転ロータの回転軸線の向きについての限定は認められない。しかしながら、本件考案の明細書(甲一、三)の考案の詳細な説明中に記載された実施例及びその実施例の図面であることが明示された図面には、回転ロータの回転軸線の向きについては畦の方向と平行になるように機枠に横架されている例の記載がなされていることが認められる。

このように、実用新案登録請求の範囲の記載と実施例の記載とを比較して、前者の記載がより抽象的・機能的である場合でも、当該実用新案登録請求の範囲の記載が明瞭であり、それ自体によって考案の詳細な説明に記載された考案の目的が達成され、考案の作用効果が奏される場合には、原則として、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりに当該考案の技術的範囲を認定してよいと解されるところ、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、実施例の記載と比較してより抽象的・機能的であることが認められるから、まず、右実用新案登録請求の範囲の記載によっても本件考案の詳細な説明に記載された本件考案の目的が達成され、本件考案の作用効果が奏されているか否かについて検討する。

前記争いのない事実一3及び4並びに証拠(甲一、三)によれば、本件考案の目的は、土盛効率及び畦叩挙動を改善し、最適な畦を実現する実用性に、優れた畦叩装置を提供することにあることが認められ、また、本件考案における回転ロータの作用効果は、「圃場泥土を跳ね上げて旧畦上に連続的に盛り上げ、回転跳ね上げ作用によって効率的な盛土ができ(る)」ことにあるものと認められる。したがって、本件考案は、回転ロータに関し、概して一般的、抽象的な考案目的及び作用効果の達成を期待しており、それ以外に何らかの特別、具体的な目的の達成、作用効果の奏出もしくはそれへの貢献を期待しているものではないと考えられ、このような一般的、抽象的な目的、作用効果は、本件考案の実用新案登録請求の範囲の事項である回転ロータによって十分に達成できると考えられる。そして、「該機枠に旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータを設け(る)」との本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載内容は、当業者にはその技術的意味内容は明らかであるというべきであるから、本件考案については、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりに当該考案の技術的範囲を認定してよいというべきである。

2  これについて被告は、回転ロータの回転軸線の方向を畦方向と平行とするか直交とするかによって作用効果に大きな差異が生じると主張するが、回転軸線の方向をどのようにするかは、本件考案の回転ロータによる「圃場泥土を跳ね上げて旧畦上に連続的に盛り上げ、回転跳ね上げ作用のため効率的な盛土ができ(る)」という作用効果内部での程度の違いにすぎないものというべきであり、被告の右主張は採用できない。

3  また、被告は、本件考案の考案者(出願人)であるA及びB(以下、「本件考案者」という。)が本件考案登録出願の後である昭和五七年一二月一七日に実願昭五七―一九一七九七号をもって、はじめて回転ロータの回転軸が畦方向と直交し、機枠に縦方向に架設された被告製品と同様の構成の「整畦機」の登録出願を行っているが、このことは、本件考案者が本件考案の出願当時、かかる構成の「回転ロータ」を全く認識していなかったことを示すものであり、考案者の認識の限度を越えている本件考案の回転ロータに関する実用新案登録請求の範囲は、その回転軸線が畦方向と平行になる回転ロータに限定して解釈すべきである旨主張する。

しかしながら、前記2のとおり、回転ロータの回転軸線の方向を畦方向と平行とするか直交とするかによって、その作用効果に大きな差異があるとは考えがたいこと、また、整畦機に回転ロータを設けること自体は公知技術であったのであるから、(前記二1)、本件考案の出願当時、当業者は、「回転軸線が畦の方向と平行な回転ロータ」も「回転軸線が畦の方向と直交する回転ロータ」も自由に感得しえたであろうと推認されること、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載をみても、明らかに「回転軸線が畦の方向と直交する回転ロータ」を排除する趣旨であるとは認められないこと、証拠(甲一三ないし一八及び乙二)によれば、実願昭五七―一九一七九七号は、同一人による同日出願の実願昭五七―一九一七九八号の実用新案(これには、実施例として「回転軸線が畦の方向と平行な回転ロータ」との記載がある。)と同一であるとの特許庁の協議指令を受け、取り下げられたと認められることなどを総合すると、回転ロータに関する本件考案の実用新案登録請求の範囲をその回転軸線が畦方向と平行になる回転ロータに限定して解釈すべきであるとする被告の主張は採用できない。

4  そして、被告製品の回転ロータは、円筒体の軸線が畦に対してほぼ直交し、かつ田面に対し、やや下方に傾斜する方向に伝達軸の先端に取り付けられたものであるが(この点は当事者間に争いがない。)、証拠(甲五ないし七及び乙一)によれば、被告製品の回転ロータは、その回転によって旧畦上に土を跳ね上げる機能を有するものであるから、本件考案の各構成要件bの「旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータ」に該当し、かつ、右回転ロータが機枠に設けられていることは当事者間に争いがないから、被告製品は、本件考案の「該機枠に旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータを設ける。」との構成要件を充足するものというべきである。

五  「畦叩機構」の要件充足に関する判断

1  前記争いのない事実一3及び4によれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「畦叩体を往復叩動作させる畦叩機構を設け(る)」との記載があるが、これには畦叩機構の具体的構造についての限定は何ら認められない。しかしながら、本件考案の明細書(甲一及び甲三)の考案の詳細な説明中に記載された実施例及びその実施例の図面であることが明示された図面には、畦叩機構の構造について、機枠の後部にクランク体を設け、クランク体に主軸より動力伝動し、クランク体と取付アームの上部とを押動リンクで連結して成る(以下これを「てこクランク機構」という。)旨の記載がある。

したがって、前記四1と同様に、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、実施例の記載と比較してより抽象的・機能的であることが認められるから、まず、畦叩機構に関する右実用新案登録請求の範囲の記載によっても本件考案の詳細な説明に記載された本件考案の目的が達成され、本件考案の作用効果が奏されているか否かについて検討する。

前記四1のとおり、本件考案の目的は、土盛効率及び畦叩挙動を改善し、最適な畦を実現する実用性に優れた畦叩装置を提供することにあり、また、本件考案における畦叩機構の作用効果は、前記の本件考案の作用効果のうちの「盛土を叩き締めて固めることができ、特に畦叩体は縦断面へ形状(本件D実用新案)あるいは畦上面及び畦の一方側面に適合させた形状(本件E実用新案)のため畦上面と畦斜面とを同時に叩き締め、旧畦及び地中と畦叩体で盛土をはさみ込んで締め固めできること」にあると考えられる。したがって、本件考案は、畦叩機構に関し、概して一般的、抽象的な目的の達成を期待しており、それ以外に何らかの特別、具体的な目的の達成、作用効果の奏出もしくはそれへの貢献を期待しているものではないと考えられ、このような一般的、抽象的な目的及び作用効果は、本件実用新案登録請求の範囲の事項である畦叩機構によって十分に達成できると考えられる。そして、「該畦叩体を往復叩動作させる畦叩機構を設ける。」との本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載内容は、当業者にはその技術的意味内容は明らかであるというべきであるから、本件考案の畦叩機構にについては、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりに当該考案の技術的範囲を認定してよいというべきである。

2  これについて被告は、畦叩機構にてこクランク機構を採用した場合、その畦叩挙動は、おじぎをするような挙動をとるため、畦叩体が畦を叩く際には、畦の上面からこれを叩くことになり、畦側面には十分な叩力が加わらず、十分に叩き締められないことになること、てこクランク機構は、機枠後部の一端から他端まで及んでおり、畦叩挙動が始まると、これらの全てが運動を開始するから、機枠は、当然に振動、揺動を始め、これに伴って畦叩体のおじぎ運動が始まるので、機枠はさらに振動し、うねり運動を起こすこと、これに対し、被告製品の畦叩機構は、直線往復運動の反復であり、しかも油圧が用いられているから、畦叩体が強い力で畦を叩くことによる反力は油圧によって吸収され、その往復直線運動は、極めて滑らかに反復され、機体がむやみに振動、揺動することはなく、畦の上面及び側面を斜上方から均等に強く叩き固めることができること、したがって、両者の畦叩機構は、その作用効果を異にするものである旨主張し、証拠(甲一、三、五ないし七、二二及び乙一)によれば、本件考案の実施例及びその実施例の図面であることが明示された図面に記載された、てこクランク機構による畦叩挙動は、ゆるやかなおじぎ運動をすること、被告製品の畦叩機構は直線往復運動をすること、振動及び揺動は被告製品の油圧式に比較しててこクランク機構の方が大きいことが認められる。

しかしながら、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、畦叩機構がおじぎをするような叩挙動を行うものに限定される旨の記載は何ら認められず、また、前記第五の二のとおり、畦上面及び畦斜面に合わせた形状の畦叩体を畦上面及び畦斜面に均等に強い力が加わるように往復運動させる畦叩機構を設けたことに本件考案の新規性があるものと考えられ、おじぎ運動であるか直線運動であるかは、前記の本件考案における畦叩機構の「盛土を叩き締めて固めることができ、特に畦叩体は縦断面へ形状の(本件D実用新案)あるいは畦上面及び畦の一方側面に適合させた形状(本件E実用新案)のため畦上面と畦斜面とを同時に叩き締め、旧畦及び地中と畦叩体で盛土をはさみ込んで締め固め」できるとの作用効果の中での程度の違いにすぎないというべきであることからすると、被告製品の油圧式の畦叩機構が機枠に与える振動及び揺動の点で優れた作用効果を奏するとしても、本件考案の畦叩機構に含まれることには変わりはないと考えられるから、被告の右主張は採用できない。

3  また、被告は、本件考案者が本件考案登録出願の後である昭和五九年一月一四日、本件考案の「畦叩機構」と同一の機構を備えた実願昭五四―二三三七号の出願審査の過程で提出した意見書(乙四)の中で、その整畦機の畦叩挙動は、おじぎをするような叩き挙動をすることに特徴があり、それによって畦を頭から叩きつけ得る結果となり、それだけ全部の土をまとめて締め固め得ることになること、直線往復運動では、滑り板的な作用が生ずる以上それだけ盛土を強く叩き締める効果が弱くなるなどと主張し、また、本件考案登録出願の後である昭和五七年四月三〇日に実願昭和五七―六三九五四号をもって、はじめて直線往復運動の反復による畦叩機構を含む考案を出願しているが、このことは、本件考案の考案者が本件考案の出願当時、油圧式の直線往復運動の反復による畦叩機構を全く認識していなかったことを示すものであり、考案者の認識の限度を越えている本件考案の畦叩機構に関する実用新案登録請求の範囲は、てこクランク機構の畦叩機構に限定して解釈すべきである旨主張する。

しかしながら、畦上面及び畦斜面に均等に強い力が加わるように往復運動させる畦叩機構を設けたことに本件考案の新規性があるものと考えられることは前記第五の二で述べたとおりであり、「てこクランク式の畦叩機構」も「油圧式の畦叩機構」も畦を叩き締めるという点では、その作用効果に大きな差異があるとは考えがたいこと、また、証拠(甲五ないし七及び乙一)によれば、被告製品の畦叩機構は、畦叩体に連なる油圧シリンダ機構と、トラクタの回転動力をクランク機構により往復運動に変換して駆動させるピストンポンプ機構とを油圧ホースで接続して構成した油圧機構であることが認められるところ、前記第五の二で述べたとおり、整畦機に畦叩体を設けること自体は公知技術であったのであり、当業者は、右のような油圧機構が整畦機に利用できることを自由に感得しえたのであろうと推認されること、証拠(甲二六及び乙四)によれば、本件考案者が昭和五九年一月一四日に提出した意見書(乙四)は、本件考案とは別の実願昭五四―二三三七号に関する出願審査の過程で提出されたものであり、右実願昭五四―二三三七号に関して同日、本件考案者が提出した手続補正書(甲二六)には、その実用新案登録請求の範囲に、「揺動腕の揺動動作により畦に対して畦叩き板をおじぎするような叩き挙動を行うように設けた」と記載されているように、明らかに本件考案の実用新案登録請求の範囲とその内容を異にするものであることが認められること、一般に実用新案の出願人は、自己の先願考案に含まれると思われる考案であっても、先願考案に対し特許庁が狭い請求範囲の記載をもってしか登録を認めないおそれがあることを見込んで、右考案を出願することもあると考えられること、本件考案の実用新案登録請求の範囲を見ても、明らかに「油圧式の畦叩機構」を排除する趣旨であったとはいえないことなどからすれば、畦叩機構に関する本件考案の実用新案登録請求の範囲をてこクランク機構に限定して解釈すべきとの被告の主張は採用できない。

4  そして、被告製品の畦叩機構は、水鉄砲式油圧構造が用いられ、機枠内に設けた油圧ポンプと機枠の外側に設けたピストン機構と、これらを連通接続する可僥性ホースとアキュムレータ及び畦叩体戻し機構からなるものであるが(この点について当事者間に争いがない。)、証拠(甲五ないし七及び乙一)によれば、被告製品の畦叩機構も畦叩体を往復叩動作させる畦叩機構といえ、それによって、盛土を叩き締めて固めることができ、特に畦叩体は縦断面へ形状の(本件D実用新案)あるいは畦上面及び畦の一方側面に適合させた形状(本件E実用新案)のため畦上面と畦斜面とを同時に叩き締め、旧畦及び地中と畦叩体で盛土をはさみ込んで締め固めできるという機能を有するものであるから、被告製品は、本件考案の「該畦叩体を往復叩動作させる畦叩機構」の構成要件(本件D実用新案のf及び本件E実用新案のg)を充足するものというべきである。

5  なお、証拠(乙四三1、2、四七)によれば、被告の代表者であるCが油圧式の畦叩き機構を用いた整畦機(昭和六〇年特許願第二八三〇九五号)について平成五年九月一七日出願公告決定を受け、同六年二月二三日右公告のなされたことが認められるが、これにより同人らが右発明を先願の実用新案と無関係に実施できることにならない(特許法七二条参照)。

六  「離泥体」の要件充足に関する判断

1  前記争いのない事実一3及び4のとおり、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「畦叩体の内面に離泥体を設けること」との記載があるが、これには離泥体の素材に関する限定は認められない。しかしながら、本件考案の明細書(甲一及び三)の考案の詳細な説明中に記載された実施例及びその実施例の図面であることが明示された図面には、離泥体の素材については、本件D実用新案がスポンジ等、本件E実用新案が布、ビニールシート、ゴム等である旨の記載がある。

前記第五の四1のとおり、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、実施例の記載と比較してより抽象的・機能的であることが認められるから、まず、右実用新案登録請求の範囲の記載によっても本件考案の詳細な説明に記載された本件考案の目的が達成され、本件考案の作用効果が奏されているか否かについて検討する。

これについては、前記第五の四1のとおり、本件考案の目的は、土盛効率及び畦叩挙動を改善し、最適な畦を実現する実用性に優れた畦叩装置を提供することにあり、また、本件考案における離泥体の作用効果は、前記の本件考案の作用効果のうちの「畦叩体の泥土着を確実に防止」できること(なお、本件E実用新案の作用効果は、「畦叩体への泥土付着が防止でき(る)」というものであることは前記第三の一4の争いのない事実のとおりであるが、本件D実用新案と作用効果を異にするものではないと考えられる。)にあると考えられる。したがって、本件考案は、離泥体に関し、概して一般的、抽象的な目的の達成を期待しており、それ以外に何らかの特別、具体的な目的の達成、作用効果の奏出もしくはそれへの貢献を期待しているものではないと考えられるところ、このような一般的、抽象的な目的及び作用効果は、本件実用新案登録請求の範囲の事項である畦叩機構によって十分に達成できると考えられる。そして、「畦叩体の内面に離泥体を設ける」との本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載内容は、当業者にはその技術的意味内容は明らかであるというべきであるから、本件考案の離泥体については、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりに当該考案の技術的範囲を認定してよいというべきである。

2  これについて被告は、被告製品の離泥体に用いられている素材は毛皮であるところ、これはスポンジ、布、ビニールシート及びゴム等と比較して極めて優れた土離れ効果があり、作用効果に大きな差異が生ずる旨主張するが、前記第五の二のとおり、畦叩体の泥土付着を防止する離泥体を設けたことに本件考案の新規性があると考えられるから、仮に離泥体の素材を毛皮とすることによってより高度の作用効果を奏するとしても、本件考案の離泥体による「畦叩体の泥土付着を確実に防止できる」との作用効果の中での程度の違いにすぎないというべきであり、被告の右主張は採用できない。

3  また、被告は、本件考案者が本件考案登録出願の前である昭和五四年一二月二九日に、はじめて整畦機の畦叩体の内面に離泥体を設けることを掲げた実用新案登録出願をしているが、その登録請求の範囲には、「畦叩体の内側全面にスポンジのような弾性及び微小多孔性を有する緩衝離泥板を貼設したことを特徴とする整畦機」と記載され、考案の詳細な説明中には、「更にゴムのように単に弾性のみを有するものではなく、スポンジのような微小多孔性を有する緩衝離泥板7を貼設した」と記載されていること、本件考案者は、本件考案登録出願の後である昭和五九年七月二〇日に皮を素材とする離泥体に関する特許出願(特開昭六一―二八三〇四号)を行い、昭和五九年一二月五日に毛を素材とする離泥体に関する特許出願(特開昭六一―一三五五〇二号)を行っていることに鑑みると、本件考案者は、本件考案の出願当時、被告製品に用いられているような離泥体の素材たる毛皮を認識していなかったものであり、認識の限度を越えている本件考案の離泥体に関する実用新案登録請求の範囲は、本件D実用新案がスポンジ等、本件E実用新案が布、ビニールシート、ゴム等とその素材に限定して解釈すべきである旨主張する。

しかしながら、前記第五の二のとおり、畦叩体の泥付着を防止する離泥体を設けたことに本件考案の新規性があると考えられ、素材をスポンジ、布、ビニールシート及びゴム等とするか毛皮とするかは、本件考案の離泥体による「畦叩体の泥土着を確実に防止」できるとの作用効果の中での程度の違いにすぎないこと、一般に実用新案の出願人は、自己の先願考案に含まれると思われる考案であっても、先願考案に対し狭い請求範囲の記載をもってしか登録が認められないおそれのあることを見込んで、右考案を出願することもあると考えられること、本件考案の実用新案登録請求の範囲をみても明らかにスポンジ、布、ビニールシート及びゴム等以外を素材とする離泥体を排除する趣旨であったとはいえないことなどからすれば、離泥体に関する本件考案の実用新案登録請求の範囲を本件D実用新案がスポンジ等、本件E実用新案が布、ビニールシート、ゴム等に限定して解釈すべきである旨の被告の主張は採用できない。

4  そして、被告製品は、その離泥体の内側に毛ばだっている側を表側にする毛皮を取り付けているものであり(当事者間に争いがない。)、証拠(甲五ないし七及び乙一)によれば、被告製品の離泥体も畦叩体の土離れ効果を確実にするものであると認められるから、被告製品は、本件考案の畦叩体内面に離泥体を設けるとの構成要件(本件D実用新案のg及び本件E実用新案のh)を充足するものというべきである。

5  なお、証拠(乙四二1、2、四六)によれば、被告が「畦叩き面に毛ばだっている側を表側にした動物の毛皮の被覆層を有する」整畦機(昭和五九年実用新案出願第五九三〇四号)について平成五年八月一六日出願公告決定を受け、同年一二月一五日右公告のなされたことが認められるが、これにより被告が右考案を先願の実用新案と無関係に実施できることにはならない(実用新案法一七条参照)。

七  要旨変更に関する判断

1  本件D実用新案について

(一) 被告は、本件考案者が本件D実用新案の登録出願の後、昭和五八年一月二八日に拒絶理由通知を受け、同五九年一月一七日に手続補正書を提出したが、さらに同年九月一四日に拒絶理由通知を受けたので、同年一一月三〇日に再び手続補正書を出して、願書添付の明細書の登録請求の範囲及考案の詳細な説明の記載を訂正する補正を行ったが、右一一月三〇日の補正は、願書に添付した明細書の要旨を変更するものであるから、実用新案法法九条一項、特許法四〇条(いずれも平成五年法律第二六号による改正前のもの)により、本件D実用新案は、右手続補正書の提出日である昭和五九年一一月三〇日になされたものとみなされる。ところが、本件D実用新案の明細書記載の考案は、昭和五七年一月六日に実開昭五七―一五〇二号の公開実用新案公報が刊行されたことによって全部公知となった。したがって、本件D実用新案には全く新規性が認められないから、その技術的範囲は明細書記載の実施例に限定されるべきである旨主張する。

(二) 被告が本件D実用新案について要旨変更がなされたと主張する根拠は、本件D実用新案の登録出願の願書に添付された明細書の登録請求の範囲及び考案の詳細な説明には、「この土起こしロータに畦側側面だけを解放した土飛散防止カバを設け(る)」と記載されているなど、土起こしロータに「畦側側面だけを解放した」という構造の「土飛散防止カバ」の設けられることが必須の要件とされていたにもかかわらず、本件考案者が昭和五九年一一月三〇日に提出した手続補正書には、「この土起こしロータに畦側側面だけを解放した土飛散防止カバを設け(る)」という構成要件を全て削除し、新たに、「該回転ロータの上方及び畦上方にカバ部材を設け、カバ部材の側方に垂下カバ部材を設け(る)」との要件を挿入しており、本件D実用新案登録出願の願書に添付された明細書には、「畦側側面だけを解放した土飛防止カバやカバ部材についての記載は全くないから、この補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を逸脱しているというものである。

(三) しかしながら、証拠(乙八2)によれば、本件考案者が願書に最初に添付した明細書又は図面には、「この土起こしロータに畦側側面だけを解放した土飛散防止カバを設け(る)」という構成要件のほかに、畦上に土留めカバ、更にそれに連続して垂下側壁及び側壁下部板を設けることなども記載されており、土起こしロータが掻き上げる泥土を四方に飛散するのを防止するための土飛散防止用カバに関し、広範な技術内容の開示がされているのであるから、右補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内にあるものというべきである。

2  本件E実用新案について

(一) 被告は、本件E実用新案が本件D実用新案の分割出願として出願されたものであるから、本件D実用新案の出願日がその要旨を変更した時点まで繰り下がる以上、分割出願である本件E実用新案の登録出願の日も右時点まで繰り下がるというべきである旨主張するが、右1で述べたとおり、本件D実用新案に要旨変更があったとは認められないから、被告の右主張は失当である。

(二) また、被告は、本件E実用新案の登録出願の願書に添付された明細書の登録請求の範囲及び考案の詳細な説明には、「前記土起こしロータに畦側が解放した土飛散防止カバを設け、この土飛散防止カバの前面壁の下縁を田面より稍上方に位置するように形成し、一方土飛散防止カバの後面の下縁を土起こしロータの刃縁回転軌跡と略等しい形状で田面より下方に位置する周縁に形成したことを特徴とする」と記載されていたにもかかわらず、本件考案者は、昭和五九年一一月三〇日付けの手続補正書において、登録請求の範囲から右構成要件を一切削除し、「カバ部材に畦上方を覆う土留カバ部材を設け、土留カバ部材の畦側に垂下カバ部材を設け、カバ部材、土留カバ部材、垂下カバ部材によって土留盛空間部を形成」するという構成要件に置き換え、さらに同六〇年五月一三日付け手続補正書において、「該回転ロータの上方及び畦上方にカバ部材を設け、カバ部材の畦側に側部カバ部材を設け、該側部カバ材の下部を上下動可能に設け(る)」と変更したのであるから、本件E用新案についても要旨の変更があったと主張する。

しかしながら、証拠(乙九2)によれば、本件考案者が願書に最初に添付した明細書又は図面には、昭和五九年一一月三〇日付け及び同六〇年五月一三日付けの手続補正書において補正された右明細書の請求範囲記載の構造についていずれも記載しており(願書に最初に添付した明細書には、側部カバ部材の下部が上下動可能である旨の明確な記載はないものの、証拠(乙八1、2、九1、2)によれば、願書に添付された図面第1図は、本件E実用新案の原出願である本件D実用新案の願書に添付された図面第1図と同じであり、本件D実用新案の願書に最初に添付された明細書中には、側部カバ部材の下部が上下動可能である構造の記載があるから、分割出願である本件E実用新案の側部カバ部材についても、その下部が上下動可能であることは明らかになっていたというべきである。)、右補正が要旨の変更にあたるとの被告の主張は失当である。

八  分割出願についての判断

1  被告は、本件E実用新案は、昭和五五年五月三一日出願の実願昭五五―七六一〇一号実用新案登録出願(D実用新案についての出願、以下これを「原出願」という。)の分割出願として出願されたものであるが、原出願の当初の明細書(乙八2)には、ただ一つの実施態様のみが第1図、第2図、第3図として示され、考案の詳細な説明の記載も、当該実施態様の説明に終始し、原出願の出願当初の明細書にはただ一つの考案が記載されているにとどまり、「二以上の考案を包含する実用新案登録出願」ではなく、また、E実用新案登録出願においても、原出願の出願当初の明細書に記載されていた第1図、第2図が明細書に転記されており、考案の詳細な説明も第1図、第2図に基づいて記述されており、少なくとも両明細書に示されている「実施の態様」は同一であるから、かかる分割出願は、考案の同一性が構成要件の対比によってなされ、構成要件が互いに過不足なく一致する場合でない限り、考案は互いに同一ではないとされる実務慣行を奇貨としてなされたものであり、原告は、原出願の出願明細書に記載されていた考案から離れて、当初の考案からは到底想到し得ない範囲まで権利範囲を拡大しようとするもので、出願日の遡及は認められない旨主張する。

2(一)  証拠(甲一ないし四、乙九2)によれば、本件E実用新案は、原出願の分割出願として昭和五五年一二月一一日に出願され、特許庁審査官は、この出願を適法な分割出願であると認め、原出願の出願日である昭和五五年五月三一日に出願がなされたものとしたことが認められる。

分割出願が適法であるためには、その内容において、①分割前の原出願がその願書に添付された明細書又は図面の記載において二以上の考案を包含し、分割出願にかかる考案がその二以上の考案の一部であること、②分割出願にかかる考案と分割後の原出願の考案が同一ではないことを要すると解するのが相当である。そして、原出願から分割して新たな出願とすることができる考案は、原出願の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたものに限られず、その要旨とする技術的事項のすべてがその考案の属する技術分野における通常の技術的知識を有する者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施できる程度に特定されているならば、右明細書の考案の詳細な説明ないし右願書に添付した図面に記載されているものであっても差し支えないものと解するのが相当である(特許法上の分割出願についての最高裁判所昭和五五年一二月一八日第一小法延判決・民集三四巻七号九一七頁参照)。そこで、本件について以下検討する。

(二)  前記第三の一の争いのない事実、第五の一、二、七の各認定事実及び証拠(甲一、三、乙八1、2、九1、2、二二、二四)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原出願は、整畦機における機枠安定装置に関する考案である。従前の整畦機では、整畦挙動の反動によって機枠にはグラツキ振動現象が生じ、このため整畦挙動が不良になり、所望の形状とか堅牢さを持った畦が形成されないという欠点があるとされていたことから、原考案は、土起こしロータの後方に支持筒を昇降自在に垂設し、この支持筒の下端に泥土中に穿入する円盤や橇のようなガイド体を設けて、右反動を受けて機枠を安定よく支承することにより確実、良好に整畦しうるようにしたものである。

さらに、原出願の願書に添付した明細書及び図面には、①右ガイド体を設けるという構成要件のほかに、②土起こしロータ畦側側面だけを解放した土飛散防止カバーを設けること、③走行車の後方に機枠を昇降機構により昇降自在に連設すること(D、E実用新案の各a)、④機枠の一側に土起こしロータを設けること(D、E実用新案の各b)、⑤土飛散防止カバを設けること(D、E実用新案の各c)、⑥更にそれに連続して垂下側壁(D、E実用新案の各d)、及び⑦側壁下部板を設けること(E実用新案のd)、⑧側壁下部板を上下動可能に設けること(E実用新案のe)、⑨畦上面と畦斜面とを叩いて整畦する畦叩き板を設けること(D実用新案のe、E実用新案のf)こと、⑩畦叩き板を反復上下揺動させる機構を設けること(D実用新案のf、E実用新案のg)、⑪離泥板を設けること(D実用新案のf)なども記載されており、広範な技術内容が開示されている。

(2) 本件E実用新案は、当初の出願においては、整畦機における土起こし装置に関する考案であり、土飛散防止カバの構造について、原出願の願書に添付された明細書の請求の範囲以上の構造(前面壁の下縁の位置や後面壁の形状及び位置等)を記載している外は、前記(1)と同様の技術内容が開示されていた。

その後、右土飛散防止カバの構造については、昭和五九年一一月三〇日及び昭和六〇年五月一三日の各手続補正書により、原出願の請求の範囲内の構成に補正された。

(3) 本件D実用新案及び本件E実用新案登録請求の範囲記載の構成要件は前記第三の一3、4記載の争いのない事実及び前記第五の一のとおりであり、両構成要件の相違点は、①E実用新案のみが、側部カバ部材(本件D実用新案の垂下カバ部材がこれに相当する)の下部を畦上面に倣って上下動可能に設け、②本件D実用新案のみが、回転ロータの土跳ね上げ跡位置に叩き反力を受ける安定部材を上下調節自在に設けている点にある。また、右構成要件の相違は、①E実用新案においては、カバ部材を上下動可能に設けることにより、畦側方への泥土飛散を防止し、その結果、跳ね上げられた泥土は外方に飛散せずに自重落下し、泥土の外方への飛散が確実に防止でき、より盛土効率が向上できるとともに平均した盛土ができるという作用効果があること、②D実用新案においては、安定部材を設けることにより、畦叩体の叩き反力を受け、機枠の振動を抑制し、このため強く盛土を締め固めできるという作用効果の相違をもたらすことにある。

(三)  以上の事実によれば、原出願は、その明細書及び図面からすると、前記第五の二記載のとおり、新規性のある技術と公知技術とを組み合わせたものであって、その要旨とする技術的事項のすべてがその考案の属する技術分野における通常の技術的知識を有する者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施できる程度に特定されており、右技術的事項には少なくとも本件D実用新案及び本件E実用新案の二つの考案を包含し、その分割出願にかかる本件E実用新案が手続補正書の提出の結果右二考案の一部となったこと、本件E実用新案と分割後の原出願の考案である本件D実用新案の構成要件及び作用効果の相違点からすると、本件E実用新案は、分割後の原出願の考案とはその技術的範囲を異にしており、同一の考案ではないと認められる。したがって、本件E実用新案の分割出願については、出願日の遡及が認められるものというべきである。

(四)  これに反する被告の主張は、原出願の考案が、考案の詳細な説明に記載された考案の実施例の開示の範囲に限定されることを前提とするものであるが、右前提が相当でないことは、前認定の事実、前記第五の二及び七記載のとおりであり、被告の右主張は理由がない(前記最高判決も、一定の場合に考案の詳細な説明を分割出願の適否に当たって考慮することも差し支えないことを判示したにとどまるものであって、考案の詳細な説明の記載内容に従って分割出願の適否を判断すべきとしたものではないというべきである。)。

第六争点2に対する判断

証拠(甲八、九、三七、乙一)及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件考案に基づく整畦機を昭和五六年以来販売し、農機具業界でも本件考案の存在が知れわたっていたこと、被告は原告と同じ新潟県内の農機具業者であること、被告は原告に対し、昭和五八年九月及び昭和六三年二月二九日に本件考案の通常実施権を取得したい旨の申入れをし、実施料の具体的数字を示すなどして交渉していることが認められる。

以上の事実及び前記第三の二の争いのない事実によれば、被告は昭和六三年九月二六日以降平成四年一一月二五日までの間、被告製品の業としての製造・販売が本件考案を侵害するものであることを知りながら、右製造・販売を行ったものであることが認められる。

第七争点3に対する判断

一  前記第三の二の争いのない事実のとおり、被告は本件考案の技術的範囲に属すると認められる被告製品を、少なくとも昭和六三年九月二六日以降、本件に先行してなされた侵害行為差止等仮処分決定送達時である平成四年一一月二五日(当裁判所に顕著な事実)まで製造・販売していたものであるところ、この製造・販売行為によって原告が被った損害の額を算定するに当たっては、被告が右製造・販売行為によって得た利益の額を基本に算定することとなり、その額が原告の被った損害と推定される(実用新案法二九条一項)。

二  そこで、本件について被告が被告製品を製造・販売することによって得た利益を算定することとなるが、証拠(乙四八、四九1、2)によれば、右期間中の被告製品(イ号及びハ号製品)の販売台数合計は少なくとも二七八三台を下らないこと、イ号製品の販売価格は、その最高が三九万三七五〇円、最低が三四万六五〇〇円であり、ロ号製品については、その最高が四〇万五一五〇円、最低が三五万一〇〇〇円であることが認められる。

そうすると、被告製品の総売上高は、右の最低販売価格によった場合でも、九億六四三〇万九五〇〇円を下らないと認められる。そして、被告が右販売によって得た利益は、常識上、少なくともその五パーセントである四八二一万五四七五円を下らないから、これが被告が被告製品の製造・販売によって得た利益と認められる。

三  このような被告の利益額の認定を覆すような主張立証はないから、右金額が原告の損害と推定され、この内二七二〇万円の賠償を求める原告の請求は理由がある。

第八まとめ

以上のとおり、被告製品の製造・販売の差止め及び損害賠償を求める原告の請求はいずれも理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 太田幸夫 裁判官 戸田彰子 裁判官 内田義厚)

イ号物件目録

イ号図面の説明書

イ号図面

イ号図面の説明書

イ号図面は債務者製品の「あぜぬり機FA―四〇」を図示したものである。

図面の簡単な説明

第一図はあぜぬり機の全体斜視図、第二図はあぜぬり機の後側面図、第三図(一)は畦叩体を畦叩き動作させる構造の断面説明図、第三図(二)はA―A線断面説明図、第三図(三)はB―B矢視説明図、第四図(一)は畦叩体の斜視図、第四図(二)はC―C線断面説明図、第五図はあぜぬり機の部分後面図、第六図(一)はあぜぬり機の横から見た部分側面図、第六図(二)はその中央部分の縦断面図である。

構造の説明

イ号製品は、大別すると次の六つの構造から成っている。

・トラクタに機枠を連結するための連結構造

・回転ロータの構造

・カバーの構造

・畦叩体の構造

・畦叩体を畦叩き動作させる構造

・安定部材の構造

以下順次各構造について詳細に説明する

・トラクタ(ア)に機枠(イ)を連結するための連結構造(ウ)

第一図に示す如く、トラクタ(ア)の後部に設けられた油圧アーム(ウa)(ウa)、上部リンク(ウb)、吊上リンク(ウc)(ウc)及び下部リンク(ウd)(ウd)から成っており、上部リンク(ウb)及び下部リンク(ウd)(ウd)の三箇所で機枠(イ)を支持し、上記吊上リンク(ウc)(ウc)を上記下部リンク(ウd)(ウd)に連結するとともに油圧アーム(ウa)(ウa)に連結し、油圧アーム(ウa)(ウa)の回動により機枠(イ)を上下回動自在に位置調節する。

・回転ロータ(エ)の構造(オ)

回転ロータ(エ)は、第一図、第二図及び第五図に示す如く、円筒体(エa)にその先端にゆくほど刃長の短い複数の刃(エb)を螺旋状にそれぞれ配置して取付け、これらの刃(エb)の先端軌跡が截頭円錐状ををなすように設けている。

また円筒体(エa)はその軸線が畦に対してほぼ直交し、かつ田面に対し、やや下方に傾斜する方向に伝達軸(オa)の先端に取り付けている。

第一図及び第二図に示す如く、トラクタ(ア)の動力取出軸(アa)、自在継手(オb)、及び減速機(オc)を介して上記伝達軸(オa)に動力を伝達し、減速機(オc)は傘歯車(オd)(オd)からなり、伝達軸(オa)の回転により回転ロータ(エ)はトラクタ(ア)の走行車輪(アb)の回転方向と逆の方向に回転して旧畦上に跳ね上げて盛土する。

・カバーの構造(カ)

第一図、第二図及び第五図に示す如く、回転ロータ(エ)には複数のカバー(カ)が配備されており、このカバー(カ)には回転ロータ(エ)の上方及び畦(キ)の上方を覆う上方覆いカバー(ク)が備えられ、さらに畦(キ)に対して垂れ下がる垂下覆いカバー(ケ)も備えられ、上方覆いカバー(ク)及び垂下覆いカバー(ケ)の前後にそれぞれ前側覆いカバー(コa)、後側覆いカバー(コb)を設け、上方覆いカバー(ク)の畦側に断面コ状の縦桟(サ)(サ)を向かい合わせて取付け、上下動カバー(シ)の両側部に四個のガイドローラー(シc)を取付けるとともに、下部両側に畦(キ)上面に接触する転輪(シb)を回転自在に設け、この各ガイドローラー(シc)を縦桟(サ)(サ)の溝内に嵌合し、縦桟(サ)(サ)間に水平扞(ヤ)を架設し、水平扞(ヤ)の中央部分に受け枠(ユa)を突出固定し、上下動カバー(シ)の中央部分に上下方向に延びる取付桟(ヨb)を固定し、取付桟(ヨb)に横穴(ヨa)を上下に形成し、選択した横穴(ヨa)にストッパーピン(ラ)を差し込み固定し、作業時は第六図(一)(二)の如くストッパーピン(ラ)を横穴(ヨa)から抜き去り、(疎甲第六号証八頁右上)、上下動カバー(シ)を畦(キ)の上面に倣って上下動可能に配設する。

・畦叩体(セ)の構造

第四図(一)(二)に示す如く、断面略U字状材によって畦(キ)の上面及び畦(キ)の一方斜面に合わせて断面〓形状に形成され、この畦上面叩板部(セa)、畦側面叩板部(セb)の内面には毛ば立っている側を表側にして土離れ効果を奏する毛皮(ス)を取付けている。

・畦叩体(セ)を畦叩き動作させる構造(ソ)

第一図及び第三図(一)(二)(三)図に示す如く、いわゆる水鉄砲式油圧構造が用いられ、機枠(イ)内に設けた油圧ポンプ(タ)と機枠(イ)の外側に設けたピストン機構(チ)と、これらを連通接続する可撓性ホース(ツ)とアキュラムレータ(テ)及び畦叩体戻し機構(ト)からなる。

第三図(一)(二)に示す如く、ピストン機構(チ)のシリンダー(チa)の下部に四角板状の四角板(ナ)を一体に形成し、ピストン(チb)の下部にシリンダー(チa)の外方を被う四角パイプ状の角ケース(ニ)を連結して成り、ピストン(チb)の進退運動の際、四角板(ナ)の四つの側面(ナa)は角ケース(ニ)の四つ内面(ニa)を摺動する。

また畦叩体(セ)は第三図(一)に示す如く、ピン(ヌ)により上記ピストン(チb)に回転自在、かつ、ゴム(ネ)により復帰自在に取付けられ、また第一図に示す如く上記ピストン機構(チ)(畦叩体戻し機構(ト)を含む)を枠板(ノ)に軸(ノa)により回転自在に取付け、かつシリンダー(チa)と共に回動する枠部材(チc)と上記枠板(ノ)との間にゴムひも(ハ)を掛けている。

また第一図、第二図に示す如く、機枠(イ)のボルト(ヒ)を取付板(フ)に設けた長穴(フa)に挿入し、ナット(ヒa)で締め付けることにより、取付板(フ)を左右移動自在に固定し、取付板(フ)に固定されたフレーム(ヘ)にハンドル(ホ)を有する螺子棒(ホa)を上下方向に設け、この螺子棒(ホa)をスライド金具(マ)に螺合させ、これに枠板(ノ)を介して上記ピストン機構(チ)及び畦叩体戻し機構(ト)を上下移動可能に取付けている。

第二図の如く、前記伝達軸(オa)にクランク機構(モ)のクランク体(モa)を固定し、クランク体(モa)に押動リンク(モb)をピン(モc)により連結し、押動リンク(モb)をピン(モd)によりプランジャー(タb)に連結し、伝達軸(オa)の回転をクランク機構(モ)によりプランジャー(タb)往復運動に変えている。

第三図(一)に示す如く、上記油圧ポンプ(タ)のシリンダー(タa)中におけるプランジャー(タb)の進退により油(O)が上記ピストン機構(チ)のシリンダー(チa)内に押込まれると、畦叩体戻し機構(ト)の二個のバネ(トa)(トb)を縮めながらピストン(チb)が進出し、ピストン(チb)に連結された畦叩体(セ)が畦(キ)に対して進出し、この畦叩体(セ)の進出運動により畦(キ)は叩かれる。

また上記油圧ポンプ(タ)のプランジャー(タb)が後退すると、油(ナ)はシリンダー(チa)内から引戻され、前記二個のバネ(トa)(トb)の復元作用により畦叩体(セ)は後退し、この後退運動により畦叩体(セ)は畦(キ)から離れる。

このようにして、油圧ポンプ(タ)のプランジャー(タb)の後退運動により、油(O)がピストン機構(チ)のシリンダー(チa)にいわゆる水鉄砲が水を吸入、排出する如くに移動してピストン機構(チ)及び畦叩体戻し機構(ト)が動作することにより畦叩体(セ)は第三図(一)に示すように畦(キ)に対して斜め直線往復運動し、これにより畦叩体(セ)は畦(キ)を反復して叩くことになる。

・安定部材(ミ)の構造

第一図及び第二図に示すように、あぜぬり機の後面の中央よりも畦叩体(セ)に近い位置に嵌合筒(ムa)を取付け、これに支持棒(ムb)を上下調節自在に嵌合させてピン(メ)により支持し、その下端には下方に直角状の腕片(ムc)を一定の角度範囲内で回動自在に取付け、この腕片(ムc)の垂直部の先端に車輪状の安定部材(ミ)を回転ロータ(エ)が土を掘り起こした跡地(W)に接地するように取付ける。

第一図

第二図

第三図(一)

第三図(二)

第三図(三)

第四図(一)

第四図(二)

第五図

第六図(一)

第六図(二)

ハ号物件目録

ハ号図面の説明書

ハ号図面

ハ号図面の説明書

ハ号図面は債務者製品の「あぜぬり機FA―五〇」を図示したものである。

図面の簡単な説明

第一図はあぜぬり機の全体斜視図、第二図はあぜぬり機の後側面図、第三図(一)は畦叩体を畦叩き動作させる構造の断面説明図、第三図(二)はA―A線断面説明図、第三図(三)はB―B矢視説明図、第四図(一)は畦叩体の斜視図、第四図(二)はC―C線断面説明図、第五図はあぜぬり機の部分後面図、第六図(一)はあぜぬり機の横から見た部分側面図、第六図(二)はその中央部分の縦断面図である。

構造の説明

次の六つの構造から構成されている。

・トラクタに機枠を連結するための連結構造

・回転ロータの構造

・カバーの構造

・畦叩体の構造

・畦叩体を畦叩き動作させる構造

・安定部材の構造

以下順次各構造について詳細に説明する

・トラクタに(ア)に機枠(イ)を連結するための連結構造(ウ)

第一図に示す如く、トラクタ(ア)の後部に設けられた油圧アーム(ウa)(ウa)、上部リンク(ウb)、吊上リンク(ウc)(ウc)及び下部リンク(ウd)(ウd)から成っており、上部リンク(ウb)及び下部リンク(ウd)(ウd)の三箇所で機枠(イ)を支持し、上記吊上リンク(ウc)(ウc)を上記下部リンク(ウd)(ウd)に連結するとともに油圧アーム(ウa)(ウa)に連結し、油圧アーム(ウa)(ウa)の回動により機枠(イ)を上下回動自在に位置調節する。

・回転ロータ(エ)の構造(オ)

回転ロータ(エ)は、第一図、第二図及び第五図に示す如く、円筒体(エa)にその先端にゆくほど刃長の短い複数の刃(エb)を螺旋状にそれぞれ配置して取付け、これらの刃(エb)の先端軌跡が截頭円錐状をなすように設けている。

また円筒体(エa)はその軸線が畦に対してほぼ直交し、かつ田面に対し、やや下方に傾斜する方向に伝達軸(オa)の先端に取り付けている。

第一図及び第二図に示す如く、トラクタ(ア)の動力取出軸(アa)、自在継手(オb)、及び減速機(オc)を介して上記伝達軸(オa)に動力を伝達し、減速機(オc)は傘歯車(オd)(オd)からなり、伝達軸(オa)の回転により回転ロータ(エ)はトラクタ(ア)の走行車輪(アb)の回転方向と逆の方向に回転して旧畦上に跳ね上げて盛土する。

・カバーの構造(カ)

第一図、第二図及び第五図に示す如く、回転ロータ(エ)には複数のカバー(カ)が配備されており、このカバー(カ)には回転ロータ(エ)の上方及び畦(キ)の上方を覆う上方覆いカバー(ク)が備えられ、さらに畦(キ)に対して垂れ下がる垂下覆いカバー(ケ)も備えられ、上方覆いカバー(ク)及び垂下覆いカバー(ケ)の前後にそれぞれ前側覆いカバー(コa)、後側覆いカバー(コb)を設け、上方覆いカバー(ク)の畦側に断面コ状の縦桟(サ)(サ)を向かい合わせて取付け、上下動カバー(シ)の両側部にスライド扞(シa)(シa)を取付けるとともに下部両側に畦(キ)上面に接触する転輪(シb)を回転自在に設け、この各スライド扞(シa)(シa)を縦桟(サ)(サ)の溝内にスライド嵌合し、縦桟(サ)(サ)間に水平扞(ヤ)を架設し、水平扞(ヤ)の中央部分に上向き鉤状の受け板(ユ)を突出固定し、上下動カバー(シ)の中央部分に上下方向に延びる取付桟(ヨ)を固定し、取付桟(ヨ)に複数個の横穴(ヨa)を上下に形成し、選択した横穴(ヨa)にストッパーピン(ラ)を差し込み固定し、ストッパーピン(ラ)が受け板(ユ)に当接することにより上下動カバー(シ)の下降を規制し、作業時は第六図(一)(二)の如くストッパーピン(ラ)を最上部の横穴(ヨa)に差し込み(疎甲第七号証八頁右上)、上下動カバー(シ)を畦(キ)の上面に倣って上下動可能に配設する。

・畦叩体(セ)の構造

第四図(一)(二)に示す如く、断面略U字状材によって畦(キ)の上面及び畦(キ)の一方斜面に合わせて断面形状に形成され、この畦上面叩板部(セa)、畦側面叩板部(セb)の内面には毛ば立っている側を表側にして土離れ効果を奏する毛皮(ス)を取付けている。

・畦叩体(セ)を畦叩き動作させる構造(ソ)

第一図及び第三図(一)(二)(三)図に示す如く、いわゆる水鉄砲式油圧構造が用いられ、機枠(イ)内に設けた油圧ポンプ(タ)と機枠(イ)の外側に設けたピストン機構(チ)と、これらを連通接続する可撓性ホース(ツ)とアキュラムレータ(テ)及び畦叩体戻し機構(ト)からなる。

第三図(一)(二)に示す如く、ピストン機構(チ)のシリンダー(チa)の下部に四角板状の四角板(ナ)を一体に形成し、ピストン(チb)の下部にシリンダー(チa)の外方を被う四角パイプ状の角ケース(ニ)を連結して成り、ピストン(チb)の進退運動の際、四角板(ナ)の四つの側面(ナa)は角ケース(ニ)の四つ内面(ニa)を摺動する。

また畦叩体(セ)は第三図(一)に示す如く、ピン(ヌ)により上記ピストン(チb)に回転自在、かつ、ゴム(ネ)により復帰自在に取付けられ、また第一図に示す如く上記ピストン機構(チ)(畦叩体戻し機構(ト)を含む)を枠板(ノ)に軸(ノa)により回転自在に取付け、かつシリンダー(チa)と共に回動する枠部材(チc)と上記枠板(ノ)との間にゴムひも(ハ)を掛けている。

また第一図、第二図に示す如く、機枠(イ)のボルト(ヒ)を取付板(フ)に設けた長穴(フa)に挿入し、ナット(ヒa)で締め付けることにより、取付板(フ)を左右移動自在に固定し、取付板(フ)に固定されたフレーム(ヘ)にハンドル(ホ)を有する螺子棒(ホa)を上下方向に設け、この螺子棒(ホa)をスライド金具(マ)に螺合させ、これに枠板(ノ)を介して上記ピストン機構(チ)及び畦叩体戻し機構(ト)を上下移動可能に取付けている。

第二図の如く、前記伝達軸(オa)にクランク機構(モ)のクランク体(モa)を固定し、クランク体(モa)に押動リンク(モb)をピン(モc)により連結し、押動リンク(モb)をピン(モd)によりプランジャー(タb)に連結し、伝達軸(オa)の回転をクランク機構(モ)によりプランジャー(タb)往復運動に変えている。

第三図(一)に示す如く、上記油圧ポンプ(タ)のシリンダー(タa)中におけるプランジャー(タb)の進退により油(O)が上記ピストン機構(チ)のシリンダー(チa)内に押込まれると、畦叩体戻し機構(ト)の二個のバネ(トa)(トb)を縮めながらピストン(チb)が進出し、ピストン(チb)に連結された畦叩体(セ)が畦(キ)に対して進出し、この畦叩体(セ)の進出運動により畦(キ)は叩かれる。

また上記油圧ポンプ(タ)のプランジャー(タb)が後退すると、油(ナ)はシリンダー(チa)内から引戻され、前記二個のバネ(トa)(トb)の復元作用により畦叩体(セ)は後退し、この後退運動により畦叩体(セ)は畦(キ)から離れる。

このようにして、油圧ポンプ(タ)のプランジャー(タb)の後退運動により、油(O)がピストン機構(チ)のシリンダー(チa)にいわゆる水鉄砲が水を吸入、排出する如くに移動してピストン機構(チ)及び畦叩体戻し機構(ト)が動作することにより畦叩体(セ)は第三図(一)に示すように畦(キ)に対して斜め直線往復運動し、これにより畦叩体(セ)は畦(キ)を反復して叩くことになる。

・安定部材(ミ)の構造

第一図及び第二図に示すように、あぜぬり機の後面の中央よりも畦叩体(セ)に近い位置に嵌合筒(ムa)を取付け、これに支持棒(ムb)を上下調節自在に嵌合させてピン(メ)により支持し、その下端には下方に直角状の腕片(ムc)を一定の角度範囲内で回動自在に取付け、この腕片(ムc)の垂直部の先端に車輪状の安定部材(ミ)を回転ロータ(エ)が土を掘り起こした跡地(W)に接地するように取付ける。

第一図

第二図

第三図(一)

第三図(二)

第三図(三)

第四図(一)

第四図(二)

第五図

第六図(一)

第六図(二)

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